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機動戦士ガンダム オルレアンの聖女 7 1234567891011

「く…クククッ…くはははは!!」
薄闇のコクピット内でチンクエが突如哂い出した。
勝ったのは俺だといわんがばかりの哂い声にわずかに戸惑うハサウェイ。

2度も命のやり取りを拒否したハサウェイをチンクエが嘲笑する。
「ほんとに…舐めている…なってない…なってないぞぉ!ガンダム!!」

「負け惜しみを…」
だがチンクエは続けた。
「お前達はどこから来た!?お前達はどこへ向かっている!?あの宙域に何がある?
一切合財連れ出して!フヌケの雑魚共と我が同志達のパーティーに、遅れて参加して何になる!!」

背筋に冷たいものが流れる。ハサウェイ達は1個中隊と交戦中の警備部隊へ向かっていた。
警備部隊は1個中隊の迎撃へと出撃していた。

つまり――。

「オトリだと!?」
全く別方向からの1個中隊分の機影がコロニーに近づくのをセンサーが無情に捉える。

「間に合わんよっ!ガンダム!捕捉されていないMSをどう止める!?30バンチの報いを受けろぉ!!」

ドクン!と、全身が心臓になったように脈打った。
耳を疑う。
おぞましい歴史的虐殺事件。
その名を?
何故??
全身が凍りつく――こいつの意味するところは…!

――ガスだ!!!

「くっそぉおおおお!!」
最大全速で追うハサウェイ。バーニアが焼き切れようが構わない。
あの中隊は、1機たりともコロニーに侵入させてはいけない。

間に合え!
間に合ってくれ!!

外壁近隣で閃光が輝きだす。対空砲火による最期の抵抗。

噛み締めた唇から血が滴る。

バーニアが出力を落とし始めている。いかな最新鋭機といえど、限界というものはある。
抵抗の光が消える。

間 に合 わな い。

絶望的な――確信。

――でもっっ!僕が!!

ハサウェイの中で、何かが弾ける。

アルゴス――それはギリシア神話に登場する魔神の名。

「お前らぁ…何でっそんなマネができるっっ!!」
絶叫とともに失速しかかっているオデュッセウスの背後、4つのコンテナが開放された。

アルゴス――それはギリシア神話に登場する魔神の名。
神々の命を受け、アルカディアで雄牛の怪物を、ペレポロネソスでエキドナを葬った魔神の名。

ジョイントから開放され、ファンネルが射出される。
爆発的な推力は20条の閃光となって到達不可能な最終防衛ラインへと攻めあがる。
メガ粒子砲の嵐が不意打ちとなって襲い掛かり、光陣と化した。

しかし――。

予期せぬ20基の”増援”は確かに中隊の足を止めた。
被弾した4機は大きく体勢を崩しはした。

「ファンネルとはな!」
グリプス戦役からの古参である。
一度視界に入れさえすれば推力だけに重きを置いた鈍重なファンネルなどただの自走砲に過ぎない。
いかに旧型・改修機の寄せ集めであるこの特殊任務班とはいえ、この程度――!何ということはない。

ファンネルが一つ閃光となって消えた。
しかもこのファンネルの制御はとても”制御されている”とは言いがたい。
被弾した寮機に止めを刺すわけでもなく、闇雲にノロノロと攻撃するだけである。

回避は容易い。我々は乗り込みさえすれば良い。ハッチを撃ち抜き、プレゼントを撃ち込めば粛清の狼煙は上がる。
”自走砲”の相手などしている暇は我々には無い。かいくぐって乗り込んでやる!
撃墜をそこそこに古参兵は外壁へと急いだ。

だが――。

アルゴス――それはギリシア神話に登場する魔神の名。
神々の命を受け、アルカディアで雄牛の怪物を、ペレポロネソスでエキドナを葬った魔神の名。

百の目を持ち、しかもそれらの目は交代で眠る為に、アルゴスは常に目覚めている。
つまり、アルゴスには時間的にも空間的にも死角が無い。

ゆえにこのシステムは、アルゴスの名を与えられた。

ファンネルのフレームが弾け飛ぶと同時に、顔を引きつらせてハサウェイは絶叫した。
「やめろぉおおおお!!!!」

 

弾けたフレームから飛び出したものが何であったか?
彼らのうち、何人が理解できただろう。

50をゆうに越えるチャイルドファンネルの狂乱の宴はただの一度。
基点となるマザーファンネルたちを結んで形成される死の結界に、最初から誘い込まれていたと誰が気付いたか?
閃光が消え、真空の闇の中をギラ・ドーガの無数の残骸が漂っている。

コクピットの中、ハサウェイは呆然と呟いていた。
「止めたかった…止めたかったんだ…・・・でも…違うんだ……僕は……僕は殺したかったワケじゃない…。」

 

ナウシカアの歓声は耳に届いていない。
ビックスとウェッジの喝采も聞こえはしない。
コクピット内に”ノイズ”が響く。
コリントス・コロニー――”アナハイム”を救った英雄の頬を、涙が伝っていた。

微笑む家族の顔。
子供のはちきれんばかりの笑顔。
妻と思しき女の顔…。

あの瞬間、狂乱の宴に呑まれた者たちの思念がサイコミュを通してハサウェイの精神に怒涛となって流れ込んでいた。
吐き気を催すまでに……。悔恨の念、家族への思慕、子への愛情…恐怖――。
敵味方何十人という人間のあらゆる感情がハサウェイの中に渦巻き、その濁流に窒息しそうになる。

闇だ…どす黒い闇……黒く黒く…どこまでも黒い…血の闇だ……命を奪う事の本質――。

――守りたかった人たちは…誰にでもいたんだ…。

両手で涙に歪んだ顔を覆った。最後に映ったのは暖かな光――。

――クェス…。

陽炎のように少女は消え、闇だけが残った。
一人ぼっちの世界…。そこでハサウェイの意識は途切れた。

機動戦士ガンダム オルレアンの聖女 7 1234567891011