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ショートストーリー

同志Rによる電波分多めなギャグストーリーです。

ファンタジーは突然に1234

『アナタみたいな童貞然とした人はガッツきそうだから却下』

それがオレ、片瀬将の通算107回目のゲームセットの合図だった

今年で大学2回生、単位もそこそこ、バイトもそこそこで悠々自適な一人暮らし
足りない物はランデブーしてくれる可愛い相棒だけで
それを得んが為に色々と奮闘しては見ているのだが
結果はいつもこんな按配なワケで…

『あは…あはは…そう…残念だなぁ…
仕方ない、これ以上さらに言い寄ったらガッツいてるのを前面に押し出すワケで…
まあ、諦めるか……うん、諦めるからさぁ、せめてこの件はどうか御内密に』

両目と両手を合わせて閉じ、舌をペロっと出して見せて、せめて軽く流せるように仕向けてみる
百戦錬磨の撃墜王ならぬ百戦フルボッコの撃墜され王のオレが幾多の戦場を駆け抜けて得た答えの一つだ
しつこく食い下がって篭城戦を繰り返した場合、恋愛条約(こくさいじょうやく)を無視した戦犯として
向こうも法律(ルール)を無視して『早く殺してくれ』と叫びたくなるエグい虐殺を行ってくるのさ

『わかったわ、口外しないであげるから、良い友達で行こうね』

そうして、一方的なドッグファイトでオレを撃墜した対戦相手は
野鳥たちが憩う池を囲んだ公園というファンシーな戦場を早々に後にした
まいったなぁ…オボコだと怖がるだろうってことで
今回は『軍曹クラスの叩き上げの兵隊さん(経験豊富な女の子)』をターゲットにしたんだが…
やれやれ…逆に経験が豊富過ぎてこっちの戦力をあっさり把握された挙句、一撃で急所にズドンとは…

『さぁて、撤収、撤収
対戦相手が居ないのにこんな血臭が煙る戦場でいつまでも一人で滑空してたら領空侵犯で迎撃されちゃいますよと』

とりあえず気持ちを切り替える努力をしてみる
ヤケで新たな対戦相手を事前の戦力調査もせずに迎えてみても敗戦は免れない事は幾多の戦場で証明済み

基地(家)に帰還する気にもなれず、ブラブラと繁華街まで自前のエンジンを噴かす
先ほどの対戦相手へ照準を絞って弾丸(告白)を放つ為に夕方を待ってアクションをしたお陰で、燃料が少ないのだ
ハイオク(高級店)などは求めないがレギュラー(ジャンクフード)くらいはタンク(胃袋)に詰めないとやってられない

目当ての『小さな御子様が間近で見たらトラウマになりそうな、笑顔がステキなピエロ』をマスコットにしている
味はともかく安価さには定評のある店が200メートルくらい先に見えてきた
今日の戦闘に勝利できた暁には仏様の飯をフルコースで持ってこさせるつもりでいたので持つ物は持っている
敗戦の痛みを和らげるためにもここでフルコースでも頼んでみるかな
普段ならここの一番安いメニューを1ダース頼んで、明日のエサも確保ってな感じだが
いや、本当にここで一番安いメニューを1ダースも頼んだら不気味この上ないか
営業用メニューを携えた店員さん12人に囲まれるんだもんな
想像しただけで背筋が寒くなりますよと

そんな益体も無い事を考えて少しニヤけながら店内に入ろうとするその瞬間に

『そっちはダメだよ。ホラ、こっち』

何だか分からないうちに謎の人物に手を引っ張られて軌道修正させられるオレ
中々の勢いで引っ張られ、あれよあれよと言う間にピエロさんの店からズンズン離れていく

『ふぅ〜〜。ココまで来れば安心だね』

やっと牽引が終了した頃には、二筋ほど離れた場所に移動させられていた
呆然としながら謎の行動をした相手を見やったオレは更に呆然とする事となる
いや、相手がオレの既知の相手じゃなかったのはまあ良いんだ
勢いで引っ張ったら人違いでした、なんて結構ある事だし
それよりもですね、この子、めちゃくちゃカワイイんですよ
なんていうの? 妖精って感じ? 中学入りたてくらいのチャイドル…みたいな?
オレは此の方、中学生以下の少女にはトキメキ回路の動力が働かなかったノーマル仕様機だったワケだけど
これは…その…ヤラれちまいました…
OK、年齢なんて国境は越えて進軍しちゃいましょう!
兵士は時に蛮勇を持って世界地図を変えちゃうものです!

『ねぇ、君は…』
『よかった、お兄ちゃん無事みたいだね。危ないところだったよね
あのままだと奴らの尖兵がお兄ちゃんを捕らえて、ネクロフィマティーの果てに邪神のスティグマを植えつけて
ヨグソトースの門を開けるためのミクルとお兄ちゃんのアルマを引き裂かれてたよ』

前言撤回
君子危うきに近寄らず
兵士は時に、勇気ある撤退も行わなければいけません
見た目の戦闘力よりも内から溢れ出る破壊力の方が危険ですよ、この子!!

『あ、いや、すまないけど人違いだと思うよ
あ、そうそう、オレはちょっと拠所(よんどころ)ない用事で直ぐに行かなければいけないところがあるんだ
いや、さっきのジャンクフード店に入ろうとしたのは、ついうっかりでそれを失念してただけで
あそこが行かないといけない場所なワケでもなくて、そういうことで時間が無いんだ
ということで、アデュ〜〜』

さっと身を離し、反転
そのままスタスタと早歩きでその場から離れ、数メートル進んだ地点で真横に猛ダッシュ!!

ガシッ!!

ガシッ?! 捕まれましたか、オレ? 捕まれましたね、オレ!

あまり見たくないがオレの腕を掴んだ人物を見る
はい、まごうことなくさっきの電波ちゃんです!
うわぁ〜、がっしり掴んでるよ…
この子がこのロリポップな外見に反して結構な力があるのはさっき引っ張り回された時点で分かっている
さて、どうやって振りほどいたものか…

『ダメだよお兄ちゃん、ミクルを置いてどこかに行っちゃ、ますます奴らの謀略の渦中に呑まれるよ』

どうも、ミクルというのがこの子の名前であるらしい
さっきはぶっ飛んだセリフを吐いてくれたお陰で、ミクルというのも脳内電波ワールドの単語の一つだと思っていたが…

『いや、あのね…』
『ハッ?! お兄ちゃん、もう尖兵たちにアルマティファンされちゃったのね!
ううん…下手をすればガンダルヴァシヴティムかも!?
これは浄解を施さないとダメね!』

こちらが説得を試みるのを遮るように怒涛の如く押し寄せる電波
ヤバイです、ヤバイですよ、超級デンジャラスですよ、この方!
何とか隙を伺って離れないと、どんな電波理論で死地に追いやられるか分かったもんじゃありません
電波なだけじゃなくて、もし『やんデレ』とかの属性も入ってたら超怒級に危険です!

そんな感じで脳がエマージェンシーコールをけたたましく鳴らしていると、左腕に妙な柔らか感触が発生する

『浄解を施してるから、今日の間は、ミクルから離れちゃダメだよ、お兄ちゃん』

その浄解なるモノが何かは分からんし分かろうとも思わないが
この左腕に感じる感触はそれを実戦した結果らしく
彼女のプチ柔らかな胸が押し付けられているワケで…

いいじゃん、浄解!
しかも、ミクルちゃんの言だと、今日一杯この状況が続くらしいですよ奥さん!

『どうかな? 少しは楽になってきたかな、お兄ちゃん?』

心配そうにオレを見上げてくるミクルちゃん
つぶらな瞳が真っ直ぐにオレを見つめる
しかも、さっきよりもギュッとその胸をオレの左腕に押し当てております!

これは……これは………これは…………これはッ!!

現実時間にして10秒程
脳内時間にして小一時間程の間を持って行われたオレ脳内サミットの結果
『これはアリ!』という条約が見事に満場一致で可決されました!!

『うん、ミクルちゃんのお陰で少し楽になったよ』
『良かった…ガンダルヴァシヴティムだったらミクルでも大変だったけど
やっぱりアルマティファンだったみたいだから、なんとかミクルのエナジーウェーブが浸透して行ってるのね
この調子なら明日には浄解を解いてもシンメトリカルがオーバーゲージに達してリゾナンスアクトにも耐えられるわ』

エナジーウェーブだか何だかは良くわからないが、プチ柔らかな感触がオレに浸透しているのは確かだ
できれば明日以降も浄解しっぱなしで居て欲しいところです

『でも、お兄ちゃん、ミクルを『ちゃん』付けで呼ぶなんてどうしたの?
いつもだったらミクルって呼び捨てで呼んでくれるのに…』

クッ…やはり来たか
どうやら彼女ワールドではオレはミクルちゃんを呼び捨てにするのが常道の掟らしい
ミクルちゃんが気遣わしげでそれでいて猜疑を孕んだ瞳でオレを伺ってくる
彼女を許容し攻略対象と定めた矢先の相手からの威嚇射撃
これからボロを出すごとに彼女の攻めは激しくなりその先には撃沈の運命が待っている
だが、この手の危ういタイトロープを渡るのに一つのボロも出さずに攻略するのは不可能であろう
しかし…オレは果たして地べたで無慈悲な絨毯爆撃を受けるだけの敗残兵なのか?
否! オレは今、相手の更に風上に立っている!!

『ああ…すまないミクル…
どうもオレは尖兵たちにアルマティファンされた影響で大部分の記憶に障害が起きているようだ
そのせいでオマエとエンゲージする為に必要なデュラキュティルが欠如してしまっている
この分では明日にリゾナンスアクトに耐えられるか分からない
しかし、こんな事に絶望はするな! ここでオマエが諦めてしまえばそれこそ奴らの思う壺だ!
まずはオレの失われたデュラキュティルを取り戻す為にもミクルのデータが必要だ
ミクルのデータを視聴認識すればオレのラティアルドライブを通じてブレインアラートが刺激され
オレたちは再びエンゲージを果たしリゾナンスアクトに耐えられるかもしれない!』

常識的な攻防で競えるのは常識の範疇の相手だけだ
だが、この相手は『違う!』
故に…こちらも初手から常識という凡庸兵器を捨てる!
言ってしまえば全くの新理論で作られた試作兵器を
性能テストを一切せず、いきなり実戦投入して暴発の危険性を省みないで乱射するようなものだ
正攻法ではどうあっても凌げないというのなら、自分でも結果が予測できない攻撃で対抗する!
しかも、自分でも耳を疑う不思議ワードの羅列っぷりはともかく
ストレートにミクルちゃんのデータを聞きだす誘導尋問
結果は予測できないがミサイルの指向性はオレにも操れる

『え…?! 何ッ、お兄ちゃん?! ミクルの知らない言葉ばっかりだよ!?
お兄ちゃんが何を言ってるのか分からないよ!?』

なるほど、初弾はこういう効果が出たか
不思議単語を散りばめれば何でも会話を合わせて来るモノかとも思ったが
電波を体現した彼女ワールドでも一応は何らかの法則性が有ったようだ
ミクルちゃんはオレの羅列した即席不思議ワードに彼女ワールド法則での整合性が取れないと
驚きつつも更にオレへの猜疑の目を強めていく

だが、オレはこの展開を全面的に『良し』とする!!

フッ…ミクルちゃん…君のような常識で測れない相手との一戦は初めてだが
オレも伊達に107回もの敗戦を経験してはいない!
失恋経験値から導き出された恋愛レベルではオレに分がある!
さぁ、ずっとオレのターンの始まりだ!!

『分からないのは当たり前だ!
そも、何故にオレとミクルが別個体として存在していると思う!?
それはオレたちが別個体である必要性があったからだ!!
全ての情報を共有する存在など、二つに分ける必要がそもそも無い!
そんなモノは一個の存在力で事足りるのだ!
ならば、別個体である必要性とは何か!?
オレとミクルの存在力が分かたれなければ成らなかった道理とは何か!?
ミクル、答えてみろ!』

明後日の方向に放たれた怒涛の連続威嚇乱射から、いきなり標的に向けての一点スナイプ

『えっ…?! そ…そんな…分からないのが当たり前って、いま、お兄ちゃんが言ったばかりなのに
そんなの分かるはずがないよ!』

予期せぬピンポイントシュートに回避も間々ならずうろたえるミクルちゃん
そこにさらに総力射撃と言わんばかりに

『バカ者!! 全ての理が分からなくても何か一つでも道筋を掴もうとしてみせろ!
はじめから全てを投げ打って諦めるなど言語道断!
そんな事で奴らに勝てると思っているのか!?
ヤル気が無いなら尻尾巻いてとっとと何処へなりと泣きダッシュして失せろ!!
ゲットバックヒァー!!』

理不尽という言の葉が装填された弾奏をフルフラットする銃口

『えぅ…あぅ…うぅぅ…』

ワケも分からないまま一方的な蹂躙の弾痕を刻まれた彼女はもう涙目だ
戦意喪失というのもおこがましい、はじめから戦闘にすらなっていない大虐殺
そこで…

『だが…オレはミクルの兄というパーソナリティーを与えられた存在
お兄ちゃんとして可愛い妹に本当に重要な事は丁寧に教えてやらないとな』

先ほどまでの捲くし立てるような勢いから声音を落として
ポンとミクルちゃんの頭に手を置き、ほんのりと微笑を浮かべて優しく撫でてやる

『お…お兄ちゃん……』

少し赤みの差した瞳がこちらを見上げてくる

『何飲む? 心にも身体にも潤いがなきゃ難しい話は聞けないだろ? 今のオマエはさ…』

目尻に薄く滲んでいた水気を親指で掬い、その指で後方にある自販機を指してやる

まずは半間休息。戦闘は一つの戦場でドンパチを永遠に繰り返すなんてできない
己か相手の心が死んじまうからドンパチが続けられなくなる
だから、永遠の戦闘を望むなら、戦意ある心を維持する為に休息と次の戦場が必要なのさ
相手が例え未知の異国の兵士でも、きっとコレは変わらない

『う…うん! じゃぁ、ミルクティー!』

さっきまでのクシャクシャになりかけた顔を弾かせて、ニッコリというよりは『にぱぁ〜』という笑顔でそう告げる
原爆の投下を強行したせいで灰も残さず殲滅しちまう危険もあったが、どうやら戦闘はまだ続行できそうだ

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